読書録:テッド・チャン『あなたの人生の物語』


さーて、何だかんだで今わたくしSF者を目指しておりまして、SF者と言いますと、まあSFコンやったりとかSF読書会やったりとかハヤカワの青い背表紙ひたすら本棚に並べたりする、あのSF者でございます。
しかし私はSF者というほどSF知識はない。が、SF者になりたいなーと思っている者として、今年甲斐もなくSF者みならいを名乗っているしだいなのです。
で、SF者みならいならSFを頑張って読まなければならないと言う事で、持前の遅読癖を発揮しつつ、SFの古典を読んでいるわけです。
そして、今回とりかかったのが、このテッド・チャンあなたの人生の物語でした。

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

まず感想を言えば、おもしろかった!でも、読みづらかった、です。
なんだか最近、僕は調子悪いらしく、完全に読書も行き詰ったのでした。
このハヤカワの日本語訳版ではこれは短編集らしく、中に

  • バビロンの塔
  • 理解
  • ゼロで割る
  • あなたの人生の物語
  • 七十二文字
  • 人類科学の進化
  • 地獄とは神の不在なり
  • 顔の美醜について――ドキュメンタリー

という風に、(この作家は寡作らしく、これで九十年代の主要作品を網羅しているらしいのですが。そしてまた比較的新しい作家でもあります。)作品が納められてあります。
このさい、諸短編の内容は割愛させていただくとして、それにしてもまあ、この中でも表題作の「あなたの人生の物語」は傑作だった!と思いました。
秀逸であり、諸短編の中でも飛びぬけています。

あなたの人生の物語」がどういう短編かと言いますと、二つの物語が同時進行で進みます。

一つは母が登山事故で死んでしまった娘に娘の人生を振り返りながら語りかける物語
そこには早世してしまった娘に対する母の哀惜が滲み出ています。

そして、もう一つは地球に飛来したヘプタポッドと呼称される異星人とコンタクトを試みる言語学者の物語
この異星人たちは身体の形状からか、人類とは違う言語を持っていて、それにははじまりや終りの概念がなく、無限に付き足していける言語なのです。

はじめにはっきり言ってしまえば、作者自身が開陳しているように、これは物理の変分原理を元ネタにして書かれたSFです。
変分原理とはまた難しいのですが、一番身近なものは誰もが理科で習った屈折の法則だと考えればよろしい。
そこでは光は最小の距離を結ぶように直進しますが、レンズによってゆがめられ、屈折し、遠い場所で焦点を結びます。
端的に言えば、この物語は二つの物語のラインを屈折させ、二つの時系列の物語を同時に存在させた文体の小説なのです。

異星人はこの変分原理に異様に興味を示し、人類とは異なった言語感覚の持ち主です。
その言語は語を後からいくらでも付け足せるため、主語、動詞、述語などと直線的には構成されていません。
またその時間間隔は過去現在未来と直線的に流れておらず、その姿同様、円形に構成されています。

主人公である言語学者は徐々に異星人の言語に理解を示し、その言語をたくみに操るようになっていきます。
そして、やがてその異星人とのコンタクトのプロジェクトで、娘の父親と出会い、二つの物語、時系列は合一します。

ヘプタポッドたちは最後に突然人類の前から姿を消しますが、主人公である彼女は終始、ヘプタポッドの言語で思考します。
それは最大の歓喜であり、同時に最大の悲痛でもあります。
彼女は自分の娘が乳飲み子である思い出を肉感的に思い浮かべると同時に、彼女の娘が二十五歳で早世した悲痛も同時に思い浮かべ、物語化するのです。
そして、彼女は娘の父親に「こどもはつくりたいかい?」と聞かれた夜の事をまた思い浮かべ、何度も繰り返し、早世する事が分かっていても、Yesと答え続けるのでした。

このブログは書評とか読書録的なものになっていきそうです。
前はそうでもなかったんですが、ブログはじめたら、何だか知り合いのブログがすごい気になり出しました。
僕の知り合いの人は積極的に自分のブログを僕にさらしてください。
ブームとしてだいぶ遅いと思いますがww[[]]